『山海経(せんがいきょう/シャンハイジン)』は、古代中国の神話や地理、奇妙な生き物が詰め込まれた不思議な書物です。
読み始めたとき、私はまず「漢字が読めない」「名前の意味がわからない」「そもそもどう読めばいいの?」と、戸惑いの連続でした。
原文は古い中国語で書かれているため、日本語で見慣れた漢字との違いに戸惑うことがあります。
そして実は、中国人ですら『山海経』の内容を完全に理解できないようです。
-e1747466301339.png)
私の中国人の夫は、原文全体の7割程度しか理解できないそうです…。
日本語に訳された文章を読んでいても、「これ、意味が通じてるのかな?」と感じることも少なくありません。
でもその“迷い”こそが、『山海経』という本の魅力のひとつなのだと、今では感じています。
この記事では、私が実際に『山海経』を読む中でぶつかった3つの「壁」と、それをどう乗り越えてきたのかをまとめました。
はじめて『山海経』を読もうとしている方や、すでに読んでいて「難しいな」と感じている方にとって、ちょっとしたヒントになれば嬉しいです。
『山海経』は、異形の存在や神話的な世界観が多数描かれている古代中国の幻想地誌ともいえる書物です。
自分だけの山海経辞典のようなものを作りたくって調べたことを記録しています。
まずは『山海経』の全体像を把握しよう
全18篇の構成と特徴(山経・海経・大荒経・海内経)
『山海経』は全18篇から成り、山や海、異民族、神々に関する情報が網羅された、まるで百科事典のような書物です。
以下のような3つの大分類に分かれています:
分類 | 含まれる篇 | 主な内容の特徴 |
---|---|---|
五蔵山経 | ・東山経 ・西山経 ・南山経 ・北山経 ・中山経 | 各地の山々、神獣、霊草、鉱物などが記されている |
海外海内経 | ・海外東経 ・海外南経 ・海外西経 ・海外北経 ・海内東経 ・海内南経 ・海内西経 ・海内北経 | 中国の内外の異民族・風俗・伝説的存在の記録 |
大荒海内経 | ・大荒東経 ・大荒南経 ・大荒西経 ・大荒北経 ・海内経 | 天地創造や神話的英雄、女媧・夸父などの神話が多く描かれる |
実在と空想が混ざる独特の世界観
現実に存在する地名や国名もあれば、明らかに神話的なものまで同居しているのが特徴です。
「地理書」でありながら、想像力の翼を広げて読める一冊でもあります。
どこから読んでもいい自由な読書スタイル
通読せず、気になる部分だけを拾い読みしても楽しめるのが『山海経』の魅力。
体系的に読むというよりも、自分の興味に沿って探索する読書スタイルが私にはあっています。
第一の壁|漢字が読めない・見慣れない表記問題
古代中国語の文体と現代との違い
『山海経』の原文は戦国〜漢代の古代中国語で書かれており、現代中国語とは語彙も文法も異なります。
また、文字も古体字や篆書に近い形式が元となっているため、日本語に慣れた目にはなじみにくい部分が多くあります。
簡体字・繁体字・日本漢字の使い分け
現代の中国本土で出版されている『山海経』は簡体字で印刷されています。
「鸟」「东」「兽」など、いずれも日本語ではそれぞれ「鳥」「東」「獣」にあたります。
訳すとき、どちらの漢字で表記するかも悩みどころです。
原文引用は簡体字、訳や解説は日本語の常用漢字というように、場面によって表記を切り替えると読みやすさと原文の忠実さを両立できます。
『山海経』に登場する例で比較してみよう
たとえば「胜遇」という文字は日本語訳では「勝遇」となります。
その訳に「えっ、間違ってない?」と思ったことがありました。
というのも、「胜」と「勝」は別の漢字だと思っていたからです。
でも調べてみると、「胜」は「勝」の簡体字。つまり、意味は同じでした。
- 胜遇: 中国語表記、簡体字
- 勝遇: 日本語表記
『山海経』では、このような簡体字が多数登場します。
簡体字 | 日本語表記 | 意味/読み方 | 備考 |
---|---|---|---|
胜遇 | 勝遇 | しょうぐう(shèng yù) | 山海経に登場する瑞鳥 |
东 | 東 | ひがし | 東山、東海などでよく登場 |
龙 | 龍 | りゅう | 神獣としてのドラゴンを表す |
药 | 薬 | くすり | 神仙の食べる不死の薬や霊草などを示す |
兽 | 獣 | けもの | 異獣や神獣の説明に使われる |
ブログでの漢字表記の工夫
私の場合、解説文や訳文では日本語の常用漢字を表記するようにしています。
読者が読みやすいように考えた結果です。
-e1747466273925.png)
でも、原文の引用や図版では簡体字を使い、「読みやすさ」と「原文への忠実さ」のバランスをとっていきたいです!
第二の壁|読み方に迷う音の問題
ピンイン・音読み・訓読みの使い分け
『山海経』には、日本語にない語も多く登場します。
私は基本的に日本語の音読みで読んでいますが、必要に応じてピンイン(例:shèng yù)も併記しています。
古代中国語の発音と現代中国語の差異
専門家によれば、『山海経』の成立当時の中国語(上古音)は、現代中国語の発音とは大きく異なるそうです。
このため、現代中国語の音読みに基づいて読むことには、歴史的な正確さという観点からは限界があることを認識しておく必要がありますね。
「正解」にこだわらない読み方
漢字の読み方に「唯一の正解」はないと思っています。
『山海経』に登場する固有名詞や地名は、無理に正確に読むよりも、イメージをつかむことを優先すると、読書の楽しみが広がるかな?と。
第三の壁|地名・人名の意味を深読みしすぎる罠
古代中国の神獣命名には、いくつかのパターンがあったと考えられています:
- 擬音的命名: 鳴き声や動きの音を表現したもの
- 地名由来: その生物が発見された、または棲むとされる地域の名前から
- 形態描写: 外見の特徴を直接表したもの
- 象徴的命名: その生物に付与された象徴的な意味や役割から
- 掛け詞的命名: 発音が似た別の意味を持つ言葉と関連付けたもの
字面から意味を想像してしまう落とし穴
「漢字を見てなんとなく意味を想像してしまう」ことが、逆に誤解を生むこともあります。
たとえば、漢字の持つ印象で「良い意味」だと思っていたら、実際は全然違う神獣だった…ということも。
具体的には「鹿蜀」という神獣がいます。
鹿蜀は「鹿」という字が入っているにもかかわらず、実際の特徴に鹿の要素は含まれていないようでした。
「馬に似た体、虎の模様という派手な外見、人間の声で鳴く」そんな姿が記されています。
音の響き重視の命名パターンもある
古代中国の命名には、鳴き声や印象、象徴的意味を重視したものもあり、漢字の意味は後付けであることもあります。
意味を一義的に決めようとせず、柔軟にとらえるのがポイントなのかもしれません。
たとえば、山海経に「当康」という「豊穣」をもたらす瑞獣が登場します。
清代の学者・郝懿行による注釈では「当康」という名と「大穰」(大いに豊作)の発音が似ていると記されています。
実践編|私が工夫している読み方
図説・注釈つき現代語訳の選び方
初心者の方には、図解や注釈がついた『山海経』の現代語訳がおすすめです。
特にイラストや説明が豊富な入門書は、視覚的に内容をつかむのに役立ちます。
-e1747466264212.png)
私のおすすめは子ども向け山海経です。
中国語ですが、現代ではアプリなどで簡単に翻訳できるので、興味のある方はぜひ手に取っていただきたいです!
また、山海経は地理書でもあるため、実際に地図にしている方もいます。
ぜひ「山海经 地图」などで検索してみてください。
地図や文献を見ながら読み解くと、いっそう想像が広がります。
自分だけの『山海経』読書メモの作り方
私は『山海経』を読み進めながら、登場する生物や地名、特徴的な表現などをこのブログにまとめ始めました。
これは単なる読書メモではなく、自分専用の『山海経』辞典のようなものにしたいと考えてます。
新たに登場する要素に出会うたびに追記し、関連性を見つけては線で結んで。
この「個人辞典」づくりが、実は『山海経』読解の醍醐味の一つだと思っています。
間違った表現をしてしまうこともあるかもしれませんが、自分なりの解釈や連想を書き留めることで、古代中国人の想像力との対話を楽しみたいと思っています。
原文と訳文を行き来する読書法
日本語訳だけに頼らず、原文と並べて読むことで、文体やリズム、ニュアンスを体感できます。
簡単な一節から始めて、少しずつ“原文に触れる”ことを意識しています。
おわりに|”迷いながら読む”ことこそが醍醐味
『山海経』は、読むたびに新しい疑問や発見が生まれる奥深い書物です。
「読めない」「意味がわからない」と感じる瞬間こそが、学びと想像力を広げる入り口なのだと思います。
名前に意味を求めすぎず、音やイメージを楽しむ。
地名や地形の記述から世界観を想像する。そんな自由な読み方ができるのも、この本の魅力です。
これからも“迷いながら読む”ことを大切にしながら、私自身の『山海経』読解の旅を続けていきたいと思います。
コメント