馬の体に人の顔、虎の模様に鳥の翼といった幻想的な姿を持つ神獣「英招(えいしょう)」をご存じですか?
『山海経』では、黄帝の住まう聖なる山を守り、四海を巡る存在として描かれています。
今回は、異なる動物の特徴を併せ持つ“キメラ的”神獣・英招の姿と、その神秘的な役割について、まとめます。
“キメラ的”神獣・英招の姿
原文(『山海経・西山経』より)
『山海経・西山経』に登場する英招の原文です。
(槐江之山)实惟帝之平圃,神英招司之,其状马身而人面,虎文而鸟翼,徇于四海,其音如榴。
山海経・西山経
意味(やさしい日本語訳):
(槐江之山)これはまさしく天帝の平圃(へいほ/聖なる園地)であり、神である英が招かれてここを司っている。
その姿は、馬の体に人の顔を持ち、虎のような斑紋と鳥の翼をそなえている。
四方の海を巡り、その鳴き声は「榴(りゅう)」のような音を発する。
英招の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 英招(えいしょう/Yīng ZhāoまたはYīng sháo) |
姿 | 馬の体・人の顔 |
特徴 | 虎のような模様と鳥の翼 |
鳴き声 | 「榴」のような鳴き声 |
役割 | 四海を巡る |
生息地 | 槐江之山(『山海経・西山経』に登場) |
二通りの読み方と解釈の違い
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ここで少し気になったのが「英招」という名前の拼音が二通りあるということ。
私が参考にした資料では、「英招」の拼音は「Yīng sháo」でしたが、「Yīng Zhāo」とする解釈もあるそうです。
解釈 | 拼音 | 説明 |
---|---|---|
①「英」が神名で「招」が動詞 | Yīng sháo | 「英が招かれて司る」とする文法的解釈(注釈書などで見られる) |
②「英招」=神獣の名前 | Yīng Zhāo | 固有名詞とする一般的解釈(『山海経』図鑑などで多く採用) |
英招とはどんな存在?

「英招」は、馬の体に人の顔、虎の斑紋に鳥の翼という、まさにキメラ的な姿を持つ神獣です。
『山海経』ではこのような異形の存在が数多く描かれますが、英招はその中でも特に印象的な存在の一つです。
- 人面:知恵や霊性の象徴
- 馬身:俊敏さや行動力
- 虎の文様:勇猛さ・威厳
- 鳥の翼:自由・天と地をつなぐ象徴
四海を巡るという記述から、「英招」はただの地元神ではなく、天地四方を巡る使者や監視者のような役割を果たしているとも考えられます。
「榴」とはどんな音?
「榴榴(liú liú)」は中国語の擬音語で、滑車が水を汲むときの音と同じ音なんだそう。
現代中国語の解釈では
- 金属がぶつかるような音
- 水をくみ上げるポンプの音 などです。
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イメージしにくいですが、「榴」は独特で神秘的な声を表すために使われるそうです。
また、水音や金属音、くぐもった音をイメージさせるとも言われます。
英招と黄帝のつながり

英招が登場する「槐江之山(かいこうのやま)」は、黄帝が成仙して隠棲したとされる場所です。
そこを守る存在として英招が描かれていることから、黄帝の側近的な神獣、あるいは天界に仕える巡行者かもしれません。
このように見ると、英招は中国神話における「聖域の守護者」でもあるようです。
槐江之山とは
又西三百二十里,曰槐江之山。
山海経・西山経
丘时之水出焉,而北流注于泑水。
其中多蠃母,其上多青、雄黄,多藏琅玕、黄金、玉,
其阳多丹粟,其陲多采黄金银。
意味(やさしい日本語訳):
さらに西へ320里進むと、槐江の山がある。
丘時(きゅうじ)の川がそこから湧き出て、北へ流れ泑水(ゆうすい)に注いでいる。この山には多くの蠃母(らぼ/螺貝の精霊)が棲み、
山の上には青色の鉱石と雄黄(おうこう)が多く産出する。
また、琅玕(ろうかん)や黄金、玉などの宝も豊かに埋蔵されている。南向きの斜面には赤い粟が実り、
山のふもとは黄金や銀を採掘する場所として知られている。
まとめ|英招は聖なる地を守る天界の巡行者
英招は馬・人・虎・鳥という異なる存在の特徴を融合させた神秘の獣です。
『山海経』では、英招は天帝の理想郷「平圃(へいほ)」を守るために召され、四方の海を巡りながらその地を司ると記されています。
その姿は、単なるキメラではなく、天界と地上、秩序と自然をつなぐ巡行者としての象徴のようです。
奇妙で不可思議な姿の奥に、古代人の信じた「神聖なる秩序の担い手」としての役割が隠されているのかもしれません。
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今後もこのサイトでは『山海経』について学んだ記録を定期的に更新していきます。
参考文献
- 『山海経 西山経』
- 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 『这才是 孩子爱看的 山海经』北京理工大学出版
- 百度百科 英招について