『山海経』を読んでいて困るのは、漢字や読み方に迷うことが多いという点です。
原文は古い中国語で書かれているため、日本語で見慣れた漢字との違いに戸惑うことがあります。
そして実は、中国人ですら『山海経』の内容を完全に理解できないようです。
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私の中国人の夫は、原文全体の7割程度しか理解できないんだって…。
それほどまでに、古典中国語の語彙や表現、地名や神獣の記述には難解さが含まれているのです。
『山海経』は、異形の存在や神話的な世界観が多数描かれている古代中国の幻想地誌ともいえる書物です。
自分だけの山海経辞典のようなものを作りたくって調べたことを記録しています。
中国と日本の漢字表記の違いに戸惑う
たとえば「胜遇」という文字は日本語訳では「勝遇」となります。
その訳に「えっ、間違ってない?」と思ったことがありました。
というのも、「胜」と「勝」は別の漢字だと思っていたからです。
形は似ていても、意味も違うのではないかと疑ったのです。
でも調べてみると、「胜」は「勝」の簡体字。つまり、意味は同じでした。
- 胜遇: 中国語表記、簡体字
- 勝遇: 日本語表記
『山海経』では、このような簡体字が多数登場します。
「鸟」「东」「兽」など、いずれも日本語ではそれぞれ「鳥」「東」「獣」にあたります。
訳すとき、どちらの漢字で表記するかも悩みどころです。
ブログでの漢字表記の工夫
私の場合、解説文や訳文では日本語の常用漢字を表記するようにしています。
読者が読みやすいように考えた結果です。
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でも、原文の引用や図版では簡体字を使い、「読みやすさ」と「原文への忠実さ」のバランスをとってるつもりです!
簡体字と繁体字の歴史的背景
実は『山海経』が成立した当時の漢字は、現代の簡体字とも繁体字(日本の漢字に近い)とも異なる古字体でした。
紀元前の時代に書かれた『山海経』の原型は、甲骨文字や金文に近い形だったとされています。
現在私たちが目にする『山海経』のテキストは、後世の書写や出版過程で字体が変化したものなのです。
中国では1956年に漢字簡略化が行われましたが、それ以前の古典は繁体字で書かれていました。
現代の中国本土で『山海経』を出版する際には、原文を簡体字に変換するため、私たち日本人から見ると違和感を覚えることがあるのです。
読み仮名にも迷う
もうひとつ悩むのが「ふりがな」、つまり読み方です。
「胜遇」を日本語で「勝遇(しょうぐう)」と読むと、なんとなく「偶然の好機」や「良い出会い」といった印象を受けます。
でも、これは勝遇という日本語の熟語があるわけではなく、勝と遇の字面から私たちが連想してしまう印象にすぎません。
『山海経』に登場する「勝遇」は鳥の名前
実は「胜遇」は、『山海経』に登場する鳥の名前です。
にもかかわらず、字面から「良い出会いの地名かな?」と思ってしまうのは、漢字の持つ意味や語感に引っ張られるからです。
こうした勘違いも、読みながら調べていく中で気づくことでした。
私の方針としては、読み仮名は基本的に音読(音読み)にしています。
ただし、必要に応じて(shèng yù)とピンインを併記するなどして、原文とのつながりを補っています。
古代中国語の発音と現代中国語の差異
『山海経』が書かれた時代の発音と現代中国語の発音は大きく異なります。
言語学者によれば、上古音(紀元前の中国語)と現代中国語のピンインには相当な隔たりがあるとされています。
例えば「胜遇」は現代中国語では「shèng yù」と発音されますが、『山海経』が成立した時代には全く異なる発音だった可能性が高いそうです。
このため、現代中国語の音読みに基づいて読むことには、歴史的な正確さという観点からは限界があることを認識しておく必要がありますね!
『山海経』に登場する例で比較してみよう
簡体字 | 日本語表記 | 意味/読み方 | 備考 |
---|---|---|---|
胜遇 | 勝遇 | しょうぐう(shèng yù) | 鳥の名前。 |
鸟 | 鳥 | とり | 簡体字では非常に頻出する漢字 |
东 | 東 | ひがし | 東山、東海などでよく登場 |
兽 | 獣 | けもの | 異獣や神獣の説明に使われる |
こうした比較をしておくと、自分の中でも「表記と意味のズレ」が整理しやすくなります。
よく登場する変換しづらい漢字たち
『山海経』を読む中で、特に頻出するのに変換や理解に苦労する漢字をいくつか紹介します:
簡体字 | 日本語表記 | 意味/読み方 | 備考 |
---|---|---|---|
龙 | 龍 | りゅう | 神獣としてのドラゴンを表す |
药 | 薬 | くすり | 神仙の食べる不死の薬や霊草などを示す |
风 | 風 | かぜ | 風の神や気象現象を表現する際に使用 |
马 | 馬 | うま | 馬に似た神獣の描写によく登場 |
これらの漢字は山海経の世界観を構成する重要な要素を表しており、記述を読み解く際のキーワードとなります。
名前の意味と特徴が一致しないこともある
『山海経』に登場する生き物たちは、名前とその特徴が一致していないことが多々あります。
『山海経』に登場する「鹿蜀」の例
たとえば「鹿蜀」という神獣は、「鹿」という字が入っているにもかかわらず、実際の特徴に鹿の要素は含まれていないようでした。
馬に似た体、虎の模様という派手な外見、人間の声で鳴く……そんな姿が記されています。
名前から想像してみるのも楽しみのひとつ
名前と姿が一致しないからといってがっかりするのではなく、私は「じゃあ、なぜこの名前がついているんだろう?」と想像することを楽しむようにしています。
「胜遇」も、字面からは「勝ちに値する出会い」「すぐれた待遇」など、ポジティブな意味を感じます。
そこから、「古代の人が神聖な鳥にこう名付けたのかな?」といった想像を膨らませるのも楽しいのです。
命名法の文化的背景
古代中国の神獣命名には、いくつかのパターンがあったと考えられています:
- 擬音的命名: 鳴き声や動きの音を表現したもの
- 地名由来: その生物が発見された、または棲むとされる地域の名前から
- 形態描写: 外見の特徴を直接表したもの
- 象徴的命名: その生物に付与された象徴的な意味や役割から
- 掛け詞的命名: 発音が似た別の意味を持つ言葉と関連付けたもの
例えば「鹿蜀」の「蜀」は古代中国の地名(現在の四川省あたり)であり、その地方の特産や信仰と関連していたかもしれません。
このような文化的背景を知ることで、一見不可解な命名にも納得できることがあります。
『山海経』の地名と現実の地理との関係
『山海経』に登場する山や海、河川などの地名は、実在の地理と対応しているものもあれば、完全に想像上のものもあります。
これが読解をさらに複雑にしているのでしょうね。
実在と空想の間にある地名
例えば「昆仑山」は実在する山脈ですが、『山海経』では神々が住む聖なる山として描かれ、現実の地理とは大きく異なります。
「東海」や「南山」といった方角を含む地名は、古代中国の地理観に基づいているため、現代の地図と直接対応させることは混乱します。
地名の漢字も現代の表記とは異なることがあり、古地名を調べる際には専門の辞典や研究書を参照する必要があります。
こうした地理的要素も『山海経』読解の難しさの理由なのでしょう。
架空の地理を楽しむ
『山海経』の魅力の一つは、この「実在と空想の狭間」にある地理観です。
現実の地名が出てくることで読者に親近感を与えながらも、そこに神秘的な要素を加えることで想像力を刺激します。
こうした架空地理の描写は、後の『西遊記』や『封神演義』などの古典文学にも大きな影響を与えています。
『山海経』の異本と校訂の問題
『山海経』には複数の版があり、時代によって内容や表記が異なります。
現存する最古の完全な版本は明代のものとされていますが、それ以前の断片的な写本や引用からもその内容を知ることができます。
異本間の表記の違い
同じ神獣や地名でも、異本間で漢字表記が異なることがあります。
例えば、ある版では「胜遇」と書かれているものが、別の版では「勝遇」や「乗遇」などと書かれていることもあります。
これは時代による字体の変化や地域による読み方の違いをからかもしれません。
このような違いなどが、『山海経』研究の重要なテーマとなっていたり。
一般読者としては、使用しているテキストがどの版に基づいているかを確認することが、正確な理解への第一歩となるのかなと。
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この説明はどこからきてるの?の連続
現代のポップカルチャーへの影響
『山海経』に登場する奇妙な生き物たちは、現代の創作物にも大きな影響を与えています。
ゲームやアニメに見る『山海経』の痕跡
「モンスターハンター」シリーズや「ポケットモンスター」など日本の人気ゲームには、『山海経』をモチーフにしたキャラクターが数多く登場します。
例えば「麒麟」などは『山海経』由来の生物がデザインのベースになっています。
また、中国発のゲーム「原神」には、より直接的に『山海経』の世界観や生物が取り入れられています。
初学者向け『山海経』の読み方アドバイス
『山海経』の世界に興味を持ち始めた方に、私なりのアドバイスをいくつか。
おすすめの入門書と読み方
- 現代語訳から始める: いきなり原文に挑戦するのではなく、信頼できる現代語訳から読み始めるのもお勧め!
- 図説書を活用する: 『山海経』の生物や地名は、図解があると理解が深まります。
- デジタル辞書を使いこなす: 簡体字と日本の漢字を相互変換できるツールやアプリの活用。
- 少しずつ読み進める: 『山海経』は一気に読む必要なし!興味のある章から読み始め、徐々に範囲を広げていくのもありです。
- メモを取りながら読む: 登場する地名や生物の名前、特徴をメモしておくと、後で読み返した際に理解が深まります。
自分だけの『山海経』辞典を作る
私は『山海経』を読み進めながら、登場する生物や地名、特徴的な表現などをこのブログにまとめ始めました。
これは単なる読書メモではなく、自分専用の『山海経』辞典のようなものにしたいと考えてます。
新たに登場する要素に出会うたびに追記し、関連性を見つけては線で結んで。
この「個人辞典」づくりが、実は『山海経』読解の醍醐味の一つだと思っています。
間違った表現をしてしまうこともあるかもしれませんが、自分なりの解釈や連想を書き留めることで、古代中国人の想像力との対話を楽しみたいと思っています!
まとめ|意味よりも“きっかけ”としての名前
『山海経』に出てくる名前は、必ずしも意味を明確に伝えるためのものではないのかもしれません。
音や漢字の印象、詩的な感覚でつけられている可能性もあります。
意味を断定するより、名前から想像を広げてみる。そうすることで、私たちは『山海経』という神秘的な書物を、より自由に、より創造的に楽しめるのかもしれませんね。
また、『山海経』のような古典を読むと、こうした字形の違いからも、言語や出版文化の違いを自然に感じ取ることができて面白いです。
小さなようでいて「言葉を通して文化を知る」いいきっかけになっていると感じています。
『山海経』との対話は、古代と現代、東洋と西洋、現実と想像の境界を行き来する旅です。
漢字の表記や読み方に迷いながらも、その迷いこそが新たな発見や創造の源となっているのではないでしょうか。
私自身、これからも『山海経』の不思議な世界を探索し続け、このブログでその発見や気づきを共有していきたいと思います。