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耳鼠とは?『山海経』に登場する尾で空飛ぶネズミ

耳鼠とは?『山海経』に登場する尾で空飛ぶネズミ 山海経
耳鼠とは?『山海経』に登場する尾で空飛ぶネズミ
hikari
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『山海経』カテゴリーへようこそ。

中国最古の地理書ともいわれる『山海経』。
戦国時代から漢代にかけて編纂されたとされるこの古典には、想像を超えた奇妙な生物たちが登場します。

『山海経』に登場する生物や地名や国民、特徴的な表現などをこのブログでまとめていきます。

今回ご紹介するのは「耳鼠(じそ)」という、薬でもある獣です。

ネズミのような体に、ウサギの頭、そして麋鹿のような姿を持ち、尾を使って空を飛ぶというのです。

この耳鼠の肉は「お腹の張りを治し、百毒を防ぐ」とも言われ、古代の人々にとっては薬獣としても語り継がれた存在でした。

この記事では、耳鼠の原文・訳文・薬効や注釈を紹介しながら、この神秘の獣の姿に迫ります。

原文(『山海経・北山経』より)

『山海経・北山経』に登場する耳鼠の原文です。

(丹熏之山)有兽焉,其状如鼠,而兔首麋身,其音如獆犬,以其尾飞,名曰耳鼠,食之不〈月采〉,又可以御百毒。

山海経・北山経

意味(やさしい日本語訳):

(丹熏の山には)一種の獣がいる。
その姿はネズミに似ており、ウサギのような頭と、鹿のような体をしている。
鳴き声は猛犬のようで、尾を使って空を飛ぶことができる。
名は「耳鼠」。
その肉を食べると、腹部の腫れを起こすことがなく、さらにあらゆる毒を防ぐことができる。

耳鼠の特徴

耳鼠のイメージ
特徴内容
名前耳鼠(じそ/ěr shǔ)
姿鼠に似ており、兎のような頭、鹿のような体
鳴き声獰猛な犬のような声
特技尾を使って空を飛ぶ
効能(薬効)肉を食べると体が腫れず(=腫れを防ぎ)、あらゆる毒に対して効果がある
生息地丹熏之山(『山海経・北山経』に登場)

郭璞(晋代)の注釈から見える耳鼠像

郭璞(276–324年)は古典の註釈家として有名で、耳鼠に対して以下のように詠んでいます:

蹠实以足,排虚以羽,翘尾飜飞,奇哉耳鼠,厥皮惟良,百毒是御。

意訳:
しっかりした足で地に立ち、羽で空をかき分け、尾を高く掲げて舞い飛ぶ。
なんと奇妙な獣、耳鼠よ。
さらに、その皮膚は非常に優れ、あらゆる毒から身を守ってくれる。

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この詩からは、耳鼠が単に「薬効のある動物」ではなく、「空を飛ぶ神秘的な存在」として尊重されていたことがわかります。

小まとめ|耳鼠は「飛行×薬効」の夢の幻獣!

  • 自然豊かな丹熏山に棲む、不思議な飛行獣
  • 尾で飛ぶという変わった移動方法
  • 肉には薬効があり、腫れを治し、あらゆる毒に効く
  • 古代人の想像力と医療観を象徴する存在
  • 郭璞に「皮膚が優れていて毒を防ぐ」と称賛される

「耳鼠」の薬効|古代人の自然観

古代中国では、この「食べれば腫れを防ぎ、百毒を御す」という効能は、動物=薬の源という考え方をよく表しています。

『山海経』には他にも多くの「薬獣(やくじゅう)」が登場します。

その中でも耳鼠は、鼠や兎に近い比較的現実的な姿をしていて、民間信仰に根ざした存在だった可能性もあります。

丹熏之山とは?

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『山海経・北山経』に登場する丹熏山(たんくんざん)は、耳鼠が棲むとされる舞台です。

『山海経・北山経』より:

又北二百里,曰丹熏之山,其上多樗柏,其草多韭薤,多丹雘。熏水出焉,而西流注于棠水。

訳:
さらに北へ二百里行くと、丹熏山という山がある。
その山には樗や柏が多く生い茂り、草は韭(ニラ)や薤(ラッキョウ)などが繁茂している。
また、山中には赤い顔料として使える丹雘(たんわく)も豊富に見られる。
この山からは熏水(くんすい)という川が発して、西へ流れ、棠水(とうすい)に注ぎ込んでいる。

環境の特徴:

耳鼠が棲む丹熏之山の特徴
  • 樹木が豊富:樗(チャンチン)や柏(ヒノキ科)が多く生えている
  • 河川が流れる:熏水という川が流れ出て他の川に合流
  • 農作物が自生:ニラやラッキョウが多く生えている
  • 鉱物資源:丹雘(赤い顔料)が採れる

具体的には:

  • 降水量がある程度ある地域(川が流れているため)
  • 植生が豊かな山地
  • おそらく中国北部の温帯地域
  • 土壌も比較的肥沃(野菜類が自生するため)

丹熏山の植生と古代社会の痕跡

丹熏山には「樗柏」や「韭薤」といった植物が群生するとされます。

この植物群は、単なる自然の描写ではなく、古代の氏族定住地(農耕集落)と遊牧民の移動ルートを象徴していると解釈する研究もあります。

つまり、丹熏山は農耕文化と遊牧文化のどちらにも関わりのある、特別な場所だったのかもしれません。

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耳鼠という存在も、そうしたふたつの文化が重なりあう中から生まれたものだと考えられます。

想像されるモデル動物は?

耳鼠は『山海経・北山経』に登場する幻想的な獣ですが、そのモデルとなった動物は果たして実在したのでしょうか?

「尾を使って飛ぶネズミ」という特徴から、コウモリやムササビのような飛翔性を持つ動物が連想されがちです。

しかし、実はそれ以上に見た目の近い動物がいます。

それが、「オオミミトビネズミ(長耳跳鼠)」と呼ばれる、小さくて愛らしい砂漠のネズミです。

耳鼠のモデル?オオミミトビネズミ
オオミミトビネズミのイメージ

この動物は、中国やモンゴルの乾燥地帯に生息します。
また、体長の3分の2に達するような大きな耳を持ち、跳ねるようにして移動します。

夜行性で敏感な聴覚を持ち、長い尾でバランスをとりながら飛び跳ねるその姿は、まさに“飛ぶ(跳ぶ)ネズミ”のようです。

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さらに興味深いのは、『山海経』に登場する耳鼠が中国北部の「丹熏山」という山に現れるとされている点です。

この地域のイメージと、実際にオオミミトビネズミが生息するゴビ砂漠などの風景は重なる部分もあります。

古代人が何らかの実在の動物を観察した結果、神話化された存在として耳鼠が生まれた可能性も考えられます。

耳鼠は確かに架空の存在ではあるものの、そこには古代人の鋭い観察眼と豊かな想像力が織り込まれているのです。

まとめ|耳鼠と丹熏山に見る、神話と現実

『山海経・北山経』に登場する耳鼠は、尾で飛び、薬効を持つという不思議な存在として描かれています。

耳鼠が住んでいたとされる丹熏山は、現在の内モンゴルにあったとする説があります。
山の植物や鉱石、川の流れについての詳しい描写を見ると、古代の人たちが自然の様子をよく見ていたことが伝わってきます。

さらに、耳鼠の姿は、現代のオオミミトビネズミとよく似ており、古代人が実際に観察した小動物に神話的な意味づけを加えた結果

  • 不思議な姿と能力
  • 食べれば病にも毒にも効くという万能性
  • 野性的でありながら薬効を持つ神秘的存在

そんな特徴から、耳鼠は「人間を守る存在」としての側面も持っていたのかもしれません。

他にも『山海経』の中には、まだまだ不思議な生き物たちがたくさんいます。
これからも少しずつ、紹介していけたらと思います。

参考文献

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