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白鹿とは?『山海経』に登場する上申山の隠れ里に住む長寿と平和の象徴

白鹿とは?上申山の隠れ里に住む長寿と平和の象徴 山海経
白鹿とは?上申山の隠れ里に住む長寿と平和の象徴

『山海経』の中に、「白鹿(はくろく)」という生き物が登場します。

白鹿と聞くと神秘的な生き物というイメージがありますよね。しかし、『山海経』では特に特別な存在としては描かれていません。

とはいえ、古代中国では白鹿は特別な存在として語り継がれています。

今回は、『山海経』の原文と、白鹿についてご紹介します。

原文(『山海経・西山経』より)

『山海経・西山経』に登場する白鹿の原文です。

又北百二十里,曰上申之山,上无草木,而多硌石,下多榛、楛,兽多白鹿。

山海経・西山経

意味(やさしい日本語訳):

さらに北へ百二十里進むと、「上申(じょうしん)の山」がある。
山の上部には草木が生えておらず磬石が多く、下部には棘のある植物が茂り、そこには白鹿が多く生息している。

白鹿の特徴

特徴内容
名前白鹿(はくろく/bái lù)
姿白い鹿
生息地上申の山(『山海経・西山経』に登場)

白鹿とはどんな存在?

『山海経・西山経』では、白鹿は特別な存在として描かれていません。
原文からわかることは、ただ「上申山」では白鹿が多く棲息しているということです。

しかし、白鹿と聞くと神様の使いといったイメージや、アルビノなどのイメージもあって希少で神秘的に感じます。

古代中国でも、白鹿はやはり特別な存在とされています。

白鹿のイメージ

中国古代における鹿の意味

中国文化において、鹿という生き物は古くから特別な意味を持つ動物でした:

  • 長寿の象徴: 鹿は長生きする動物として知られ、不老不死の願いと結び付けられました
  • 霊獣としての地位: 神仙思想において、鹿は仙人の乗り物や伴侶として描かれることが多い
  • 純潔性: 清らかで穢れのない存在として崇敬の対象

『詩経』に見る鹿の神聖性

中国最古の詩集『詩経』では、鹿はしばしば神霊の使いとして登場します。
その中でも有名な詩のひとつに《小雅・鹿鳴》があります。

呦呦鹿鳴,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。

日本語訳:
鹿が「おうおう」と鳴き、野に生える蘋(ぴん:水草)を食べている。
そこに立派なお客様をお迎えして、琴や笙で音楽を奏でて宴を開こう。

この詩は、客人を丁重にもてなす宴を詠んだもので、
この詩にちなんで「鹿鳴之宴(ろくめいのえん)」という四字熟語も生まれました。これは、「貴賓をもてなす宴」の意味で、儀礼・祝宴・接待などに使われます。

「白」の持つ特別な意味

白色は中国古代思想において以下のような象徴性を持ちます:

  • 五行思想: 白は西方・秋・金の属性を持つ
  • 純潔と神聖: 最も清らかな色として神々しいものの象徴
  • 超自然性: 通常とは異なる白い動物は神異な存在とされた

白鹿の複合的象徴性

鹿の持つ霊性と白色の神聖性が組み合わさることで、白鹿は特別な存在となります:

  • 神仙への導き手
  • 吉祥の前兆
  • 清浄な霊的エネルギーの化身

例えば、前漢時代の史書には、皇帝の徳が高まった時期に白鹿が現れたという記録があります。

元狩元年,甘泉宫有白鹿。
(前122年、甘泉宮に白鹿が現れた)

白鹿の出現は「天下泰平」の証とされ、政治の安定や君主の徳を讃えるものと解釈されたのです。

これは中国古代の「祥瑞」(しょうずい)という概念に基づくものです。

祥瑞とは、天が皇帝の徳治を認めて送る吉兆の象徴とされ、白鹿はその代表的なものの一つでした。
他にも麒麟、鳳凰、白虎、甘露なども祥瑞とされていました。

白鹿が生息する上申山

上申山の地形的特徴

上申山の描写から読み取れる特徴です:

山の上部: 草木が生えない岩石地帯(磬石が多い)
山の下部: 棘のある植物が密生する森林地帯

上申山と白鹿のイメージ
上申山のイメージ

白鹿の生息環境

白鹿が「下多棘棘」の環境、つまり棘のある植物が密生する場所に多く生息するという記述からイメージできること:

  1. 保護機能: 棘のある植物は天敵から身を守る自然の要塞
  2. 食料供給: 棘のある植物の葉や実が食料源
  3. 隠遁性: 人里離れた環境で静かな生活

草木も育たず棘のある植物が生い茂るというのは、人を寄せ付けない雰囲気を感じさせます。

白鹿は、人を寄せつけない厳しい環境に棲むからこそ、私たちにとって神秘的で非日常的な存在として想像されてきたのでしょう。

他文化との比較

白い鹿や神聖な鹿のモチーフは中国文化特有のものではありません:

  • ケルト神話: 白い牡鹿は異界への案内者
  • 日本神話: 鹿は神の使いとして春日大社などで崇敬
  • 北欧神話: 世界樹ユグドラシルに住む四頭の鹿

鹿という動物が持つ本質的な特性(優美さ、俊敏さ、警戒心)は人類共通なのかもしれません。

日本における白鹿

日本でも古来から鹿は神聖な動物として崇拝されてきた存在です。

奈良の春日大社では、神様が白鹿に乗って来られたという言い伝えがあり、白鹿は「神様の使い」として知られています。
また、鹿は「禄(ろく)」=幸せや喜びと音が似ていることから、縁起が良いものとされてきました。

奈良の春日大社の白鹿おみくじ
奈良の春日大社のおみくじ

まとめ

鹿は古代中国において、神話や山野の生き物にとどまらず、詩や儀礼の場にも登場する象徴的存在でした。
とりわけ『詩経』などに見られる鹿の描写は、神聖さや高貴さを表すものとして位置づけられています。

そのような背景があるからこそ、白鹿のような「特別な鹿」が神話に登場するのも自然なことといえるでしょう。

さらに、白鹿に込められた「純潔性」や「神聖性」は、時代や文化を超えて、現代においても共感される価値観となっています。

一方で、山海経に登場する白鹿は、「上申山」という実在感のある地名とともに描かれています。
しかしながら、その描写は現実の鹿とは異なり、どこか幻想的で超自然的な印象を与えるものです。

このように、現実的な地理と神話的象徴が重なり合う二重性こそが、『山海経』という書物の最大の魅力なのかもしれません。


参考文献・出典

本記事の内容は、中国古代神話書『山海経』に記された「白鹿」の記述をもとに、
現代的な視点からその姿・象徴性を読み解いたものです。

以下の文献・資料を参考にしています:

  • 『山海経 西山経』(晋・郭璞注)18巻本 明刊版
     ※国立国会図書館デジタルコレクションより参照
  • 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)

※ご興味のある方は、原典や図解資料もぜひお手に取ってみてください。
白鹿をはじめとする山海経の神獣たちは、今なお私たちの想像力を刺激し、創作や思想の源泉となっています。

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