䍺(かん)という獣が『山海経』に登場します。
『山海経』は、古代中国の神話や地理、伝説の生き物が集められた、とてもユニークな書物です。
そんな中に登場する「䍺」という獣はあまり知られていないかもしれません。
羊のような姿をしているようですが、じつは少し変わった特徴を持ち、幸運を運んでくれる存在とされています。
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今回の記事では「䍺」について学んだことをまとめます!
原文(『山海経・南山経』より)
『山海経・南山経』に登場する䍺の原文です。
又东四百里,曰洵山,其阳多金,其阴多玉。有兽焉,其状如羊而无口,不可杀也,其名曰䍺。
山海経・南山経
意味(やさしい日本語訳):
さらに東へ四百里行くと、洵山という山がある。
その日向では金が、日陰では玉がよく採れる。
この山には不思議な獣が住んでいて、見た目は羊のようだが、口がない。
そして、どんな方法でも殺すことができない。
その名を「䍺」という。
![䍺の挿絵。晉郭璞傳 ほか『山海經18卷』[1],明刊. 国立国会図書館デジタルコレクション](https://tesusabi.com/wp-content/uploads/2025/05/digidepo_2555513_0019-1-1024x863.jpg)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2555513 (参照 2025-05-25)
䍺の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 䍺(かん/huán) |
姿 | 羊のような姿で口がない |
特別な能力 | 殺すことができない |
生息地 | 洵山(『山海経・南山経』に登場) |
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山に住む羊なので、おそらく山羊と言った方がイメージに近いかもしれません
洵山という山では、日向では金が、日陰では玉がよく採れる。
そのことから平地ではないのかな?とイメージします。
羊は平地で暮らすことが多く、山羊は山に暮らし、高い崖なども平気で登る特徴からも山羊のことかもしれませんね。

洵山という金と玉が採れる山
洵山という山について『山海経・南山経』ではこのようにも書かれています。
洵水出焉,而南流注于阏之泽,其中多芘蠃。
山海経・南山経
意味(やさしい日本語訳):
山からは洵水という川が流れ出し、南へ流れて阏(えつ)の沢に注がれる。
川の中には「芘蠃(ひら)」という紫色の巻貝のような生き物が多く棲む。
洵山は、
- 金や玉といった貴重な鉱物が眠り
- 川が流れ
- 珍しい生物が生息する
中国南方の山
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『山海経・南山経』に描かれるということは中国南方にある山をイメージしていみてもいいのかな?
そう思って検索してみたところ、中国の世界遺産「中国南方カルスト」が出てきます。
石灰岩が広がる地形に雨水などが侵食することで形成される地形のことだそう。
木の実などが豊富というわけではなく、鉱物がされる洵山も岩山のような地形なのかもしれませんね。
䍺は食べなくても生きていけるので、草木が少なくても問題なさそうです。
䍺の現代的な解釈と物語化
子ども向けの『山海経』では、この䍺が「人間に幸運をもたらす羊」として描かれています。
物語の中では、䍺が現れた場所には花が咲き誇り、雨風もやさしくなり、人々の暮らしが豊かになると語られています。
自由を選んだ神の獣という伝説
あるお話では、䍺はもともと天界の神様に仕える存在でしたが、「自由でいたい」という願いから人間の世界へ降りてきたのだとか。
そしてその代わりに、食べるための口を失ってしまったともいわれています。
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もともと山羊は好奇心旺盛で、活発で独立心が強い性格が特徴なんだそうです。
単独行動する傾向もあるそうで、山羊らしいとも思える物語でした!
補足:䍺と「羊患」は同じ獣?
この記事で紹介してきた不思議な獣「䍺」は、『山海経』南山経に記された正式な名称です。
しかし、近年の子ども向け絵本や解説書では、この獣のことを「羊患(ようかん)」と呼ぶことがあります。
(もしくは「患(かん)」と言われることもあるようです。)
実はこの「羊患」、䍺と特徴がまったく同じなんです。
- 洵山に住んでいる
- 羊のような姿
- 口がない
- 食べずとも生き、殺すことができない
つまり、「羊患」は『山海経』の䍺を、より現代的でわかりやすい名前に言い換えたものだと考えられています。
どうして名前が違うの?
- 「䍺」は難しい漢字で一般的に読めない
- 「羊患」は、見た目や意味からイメージしやすい言葉として付けられた可能性
- 教育や創作の中で使われやすくなった別名と考えられる
そのため、ブログや読み物では「䍺=羊患」という前提で紹介しても問題ありません。
䍺と「羊患」について、まとめると…
「羊患」は、洵山に住む『山海経』の神獣「䍺」の別称。
名前は違っても、同じ伝承・同じ獣を指していると考えられます。
まとめ:神話だけどやっぱり山羊みたい

䍺という生き物は実在しません。
でも、その物語の中からは山羊としてのリアルな姿もなんとなく想像できました。
たとえば、
- 洵山が岩山であるなら=山羊は高い崖なども平気
- 「自由でいたい」=山羊の活発で独立心旺盛な性格
実際に山羊を見た人が不思議な生き物だと語り継いで生まれた存在が䍺なのかなと感じました。
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神話上の生き物だけど、今回はリアルさを感じた回でした!
参考文献(非明示)
- 『山海経 南山経』(晋・郭璞注)18巻本 明刊版
※国立国会図書館デジタルコレクションより参照 - 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 『这才是 孩子爱看的 山海经』北京理工大学出版(一部参考)