古代中国の地理神話書『山海経』には、数多くの奇妙で不思議な生き物が登場します。
今回ご紹介するのは、その中でも「鳴き声が人の歌のよう」とされる神獣、鹿蜀(ろくしょく/lù shǔ)。
馬のような姿に、虎の模様、赤い尾、そして白い首。
その不思議なビジュアルと、人間のような声で鳴くという描写に、思わず目が留まってしまいました。
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しかもこの鹿蜀、子孫繁栄を象徴する存在でもあるのです!
人間のような声で鳴く吉祥神獣
原文(『山海経・南山経』より)

https://dl.ndl.go.jp/pid/2555513 (参照 2025-05-08)
『山海経・南山経』に登場する鹿蜀の原文です。
有兽焉,其状如馬而白首,
山海経・南山経
其文如虎而赤尾,其音如谣,其名曰鹿蜀,佩之宜子孙。
意味(やさしい日本語訳):
(祖陽山という山に、)ある獣がいる。
姿は馬のようで、首は白く、模様は虎のようで、尾は赤い。
鳴き声は謠(よう)…人が歌うような声だという。
その名は鹿蜀といい、子孫繁栄をもたらす吉兆の存在とされている。
その姿を想像しただけで、きっとかっこいいような気がします。
また一方で、人間のような声で鳴くという描写はとても神秘的です。

https://dl.ndl.go.jp/pid/2555513 (参照 2025-05-25)
鹿蜀の特徴

特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 鹿蜀(ろくしょく/lù shǔ) |
姿 | 馬のような体、白い首、虎の模様、赤い尾 |
鳴き声 | 謡のよう=人の歌声のような響き |
象徴する意味 | 子孫繁栄・吉祥のシンボル |
鹿蜀の姿から見える『山海経』の魅力

その鳴き声の美しさや、子孫繁栄の象徴という側面から、
単なる“怖い存在”ではなく、人間にとって吉兆をもたらす守護的な存在として鹿蜀は描かれています。
鹿という字が入っているので、鹿のような姿と思いきや、ベースは馬なのだそうです。
アニメやゲームでは鹿の角を持ったビジュアルで登場することもよく見かけます。
「体が馬のよう」とするだけで、馬でもなければ鹿でもないのでしょうが。
自由な発想ができるというのも山海経の魅力だと思います。
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にしても、虎の模様だなんてオシャレだな〜!
『山海経図讃』によると
『山海経図讃』には、鹿蜀についてこのような言葉が記されています。
鹿蜀之兽,马质虎文,骧首吟鸣,矫矫腾群。佩其皮毛,子孙如云。
山海经图赞
鹿蜀という獣は、馬のような体に虎の文様。首を高く上げて吟じ鳴き、堂々と群れの中を飛び跳ねる。その皮毛を身につければ、子孫は雲のように繁栄するといわれている。
この言葉からも、やはりただの異形の獣ではなく、美しさと力強さをあわせもった“祝福の象徴”としての鹿蜀が浮かび上がります。
もしかすると鹿蜀の姿には未来への祈りや願いを重ねていたのかもしれません。
とある書籍での鹿蜀の物語
子供向け山海経では「鹿蜀の毛を大切にしてたら一家が繁栄した。」というふうな物語が描かれていました。
本当にそういった伝説が小さな村から始まり山海経の一部になったのかもしれませんね。
『山海経』には、人間と動物、神と獣の境界があいまいな存在が多く登場しますが、
鹿蜀のように「言葉(鳴き声)を持つ獣」は、特に霊力や神秘性が高いというイメージもあります。
まとめ|鹿蜀は“美しい鳴き声をもつ神獣”
赤い尾と虎の模様という鮮やかな外見、そして人の歌声のような鳴き声。
鹿蜀は、外見のインパクトだけでなく、音による神秘性と、子孫繁栄という祝福の象徴として、
古代中国の人々に特別な意味をもたらしていたのかもしれません。
山海経の世界を旅する中で、こうした“ちょっと怖くて、でも美しい”存在たちに出会えるのも、この書物の大きな魅力です。
参考文献・出典
本記事の内容は、中国古代神話書『山海経』に記された「鹿蜀」の記述をもとに、
現代的な視点からその姿・象徴性を読み解いたものです。
記載されている原文や解釈には、筆者による意訳・注釈を含んでおります。
ご理解のうえ、お楽しみいただければ幸いです。
以下の文献・資料を参考にしています:
- 『山海経 南山経』(晋・郭璞注)18巻本 明刊版
※国立国会図書館デジタルコレクションより参照 - 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 『山海経図讃』収録 鹿蜀の詩文
- 『这才是 孩子爱看的 山海经』北京理工大学出版(一部参考)
- 维基百科「鹿蜀」
※ご興味のある方は、原典や図解資料もぜひお手に取ってみてください。
鹿蜀をはじめとする山海経の神獣たちは、今なお私たちの想像力を刺激し、創作や思想の源泉となっています。
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