今回ご紹介するのは「虎蛟(ここう)」という、薬でもある魚獣です。
魚のような体に、蛇のような尾。そして、鳴き声はなんと“オシドリ”のよう。
見た目のインパクトもさることながら、この虎蛟には“痔に効く”という驚きの薬効まで語られています。
この記事では、原文の紹介や古注、現代的な視点からの考察を交えながら、虎蛟という異形の霊獣の魅力に迫ります。
原文(『山海経・南山経』より)
『山海経・南山経』に登場する虎蛟の原文です。
(祷过之山)混水中有虎蛟,其状鱼身而蛇尾,其音如鸳鸯,食者不肿,可以已痔。
山海経・南山経
意味(やさしい日本語訳):
(祷过之山の)混水には虎蛟というものがいる。
その姿は魚のようで、体は蛇の尾を持ち、鳴き声はオシドリに似ている。
その肉を食べると腫れものができず、痔を治すことができる。
虎蛟の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 虎蛟(ここう/hǔ jiāo) |
姿 | 魚の姿、蛇の尾 |
鳴き声 | オシドリに似ている |
効能(薬効) | 肉を食べると体が腫れず(=腫れを防ぎ)、痔を治す効果がある |
生息地 | 祷过之山(『山海経・南山経』に登場) |
郭璞(晋代)の注釈から見える虎蛟像
『山海経・南山経』に登場する虎蛟の原文に対して、東晋の学者・郭璞(かくはく)は次のように注釈を加えています:
蛟似蛇,四足,龙属。
意訳:
蛟とは蛇に似ており、四本足があり、龍の一種である。
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つまり、虎蛟は単なる魚や蛇ではなく、「龍の一族」とされる霊獣です。
姿かたちは混成的で、魚の体に蛇の尾、四本足を持つという異様な風貌ながら、神聖な力と薬効を備えた存在として語られています。
虎蛟はどんな存在?

虎蛟は、「魚の体」「蛇の尾」「鳥の声」という、まったく異なる生物の特徴を併せ持つ異形の霊獣です。
その姿は生物学的にはありえないものですが、まさに神話世界ならでは。
このような複合的な姿は、古代中国における自然観や世界観を強く反映しています。
解説|虎蛟はなぜ鸳鸯の鳴き声?
鸳鸯(yuānyāng)とは、日本でも知られる「オシドリ」のことです。
中国でもオシドリは「仲の良い夫婦」の象徴として親しまれており、並んで泳ぐ姿から“比翼連理”のような理想の夫婦像を意味することもあります。
そんな鸳鸯の鳴き声に虎蛟の声がたとえられているのは、単に音が似ているというだけでなく、虎蛟が縁起のよい存在とされていたことの表れかもしれません。
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霊獣であり、病を治す力を持ち、さらに鳴き声まで吉祥の象徴にたとえられる虎蛟は、古代の人々にとって「ありがたい存在」だったのではないでしょうか。
“食べれば痔が治る”!?虎蛟に宿る民間医療の知恵

さらに注目すべきは、その薬効です。
『山海経』では、虎蛟の肉を食べることで「腫れができず、痔を治す」と明記されています。
当時の人々が動物の肉体に宿る“気”や“効能”を信じ、民間医療や呪術と結びつけていたということかもしれません。
とりわけ“痔”のような日常的な病気に効くという記述は、「虎蛟=霊的存在であると同時に、現実的にもありがたい生き物」としてのイメージを連想させます。
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つまり、虎蛟は神話的な存在である一方で、古代の人々の生活や身体感覚に密接に寄り添っていた、
そんな“神と暮らしのあいだ”に存在する霊獣だったのかもしれません。
祷过之山とは?|金玉と奇獣が集まる神秘の山
『山海経・南山経』より:
東五百里,曰祷过之山,其上多金玉,其下多犀、兕,多象。
有鸟焉,其状如䴔而白首、三足、人面,其名曰瞿如,其鸣自号也。
泿水出焉,而南流注于海。
意訳:
東へ五百里行くと、「祷过之山(とうかしざん)」という山がある。
この山の上には多くの金や玉(宝石)があり、ふもとには犀(サイ)・兕(じ/野生の牛)・象(ゾウ)などの動物が多く住んでいる。
また、この地には一種の不思議な鳥がいて、その姿は水鳥のようだが、白い頭・三本足・人間の顔をしており、「瞿如(くじょ)」という名で呼ばれている。
その鳴き声は「自分の名を名乗るような声」だという。
また、この山からは「泿水(こんすい)」が湧き出ており、南へと流れて海に注ぐ。
特徴と注目ポイント

金玉が採れる霊山
祷过之山の山頂には金や玉が豊富にあると記されており、古代中国における“宝物の山”のように存在しています。
多くの珍獣が棲む場所
山のふもとには、犀・兕・象といった、古代では神聖視されていたり力強さの象徴とされた動物たちが数多く登場します。
中でも「兕」は『山海経』によく現れる霊獣で、現実世界の牛やサイに似て非なるものと考えられています。
人面三足の鳥「瞿如」
最大の見どころはこの「瞿如(くじょ)」という鳥の存在。
水鳥に似た姿でありながら、
- 白い頭
- 三本足
- 人の顔
という異様な外見をしており、鳴き声で自分の名を名乗るというユニークな特徴まであります。
現代の視点で見た祷過之山
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祷过之山は、ひと言でいえば「宝の山」。
山の上には金や玉がたくさん、ふもとにはサイやゾウ、そして「人の顔をした三本足の鳥(瞿如)」まで登場します。
この「瞿如」のような不思議な鳥は、神話では「神さまの使い」や「死者の魂を運ぶ存在」として描かれることもあります。
ただ奇妙なだけじゃなく、何か特別な力やメッセージを持った存在として考えられていたのかもしれません。
小まとめ|祷过之山ってどんな場所?
- 山の上には金や宝石
- ふもとには力強い動物たち
- 空には人面の不思議な鳥が飛ぶ
祷过之山から東へ500里
さらに祷过之山から、さらに東へ500里のところにある丹穴之山には鳳凰が存在します。
まとめ|虎蛟は“暮らし”をつなぐ異形の霊獣
虎蛟は、魚の体に蛇の尾、そしてオシドリのような鳴き声を持つ、異様で神秘的な姿の霊獣です。
古代の人々はその姿に自然界の力を見出し、さらに「腫れものや痔に効く」という薬効までも信じていました。
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『山海経』に描かれる虎蛟は、単なる空想の産物ではなく、自然と人、神と日常をつなぐ“橋渡し”のような存在だったのかもしれません。
他にも『山海経』の中には、まだまだ不思議な生き物たちがたくさんいます。
これからも少しずつ、紹介していけたらと思います。
参考文献
- 『山海経 南山経』
- 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 百度百科 虎蛟について
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