今回ご紹介するのは「白民の国」に棲むとされる霊獣・乘黄(じょうこう)です。
そこに登場する乘黄は、姿は狐のようで背中には角が生え、さらになんと「その背に乗れば寿命が2000歳になる」と言われています。
この記事では、そんな乘黄の伝説をもとに、その姿や特徴についてまとめます。
狐のような姿の神獣、乘黄とは?

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乘黄についての原文
原文(『山海経・海外西経』より)
『山海経・海外西経』に登場する乘黄の原文です。
(白民之国)有乘黄,其状如狐,其背上有角,乘之寿二千岁。
山海経・海外西経
意味(やさしい日本語訳):
白民の国には「乘黄」という名前の霊獣がいて、その姿は狐のようで、背中には角が生えている。
その背に乗れば、寿命は2000歳にまで延びるという。

国立国会図書館デジタルコレクション
(参照 2025-06-17)
乘黄の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 乘黄(じょうこう/chéng huáng) |
姿 | 狐のような体つき |
特徴 | 背中に角が生えている |
特別な能力 | 背に乗れば寿命が2000歳にまで延びる |
生息地 | 白民国(『山海経・海外西経』に登場) |
神話に見る「不老長寿」への憧れ
この乘黄は、「狐のような体つき」に「背に角を持つ」という、姿で描かれています。
その見た目だけでも十分に不思議ですが、さらに注目すべきは、「その背に乗れば2000歳まで生きられる」という伝承です。
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古代中国の神話や思想において、「不老不死」「延命長寿」は常に追い求められてきた理想でした。
黄帝や西王母、彭祖といった伝説的人物たちも、長寿や不死に関わる存在として語られます。
人々の間では「寿命の長さ」が神聖さや徳の高さを示すものだったのでしょう。
唐代 『初学記』による乘黄の記述
乘黄の長寿に関する伝承は実際、類似する記述は『山海経』だけでなく、他の古典にも見られます。
たとえば『初学記』では、この乘黄に関する情報がさらに豊かに語られています。
滕黄者,神马也。其色黄,一名乘黄,亦曰飛黄,或作古黄,或曰翠黄。一名紫黄,其状如狐,背上有两角。出白民之国,乗之寿可三千歳。黄帝乗之。
初学記
この記述によれば、
乘黄(または滕黄・飛黄などとも呼ばれる)は神の馬(神马)であり、黄色の体毛を持ち、狐のような姿で、背中には二本の角を生やしています。
そして、白民の国から現れ、これに乗ればなんと寿命は三千年に達する
とされ、かの黄帝(中国神話における伝説の帝王)もこれに乗ったと伝えられています。
そうした背景の中で、「乘黄」という霊獣は、長寿という恩恵をもたらす神聖な媒体=乗り物として捉えられていたと考えられます。
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「その背に乗ることで長生きできる」という発想は、現代でいえば“聖獣に導かれて天界へ至る”ようなイメージにも通じるものかもしれません。
また、『山海経』ではこのように“ある動物に乗ることで何かしらの恩恵を得られる”というモチーフがしばしば登場します。
それは乘黄に限らず、空を飛ぶ鳥、海を泳ぐ魚など、多様な霊獣たちに共通しています。
白民の国とは?
「白民之国」とは、肌の色が白い民族が住んでいるとされる、架空の異国のことです。
山海経の中では、異民族・異世界の国々がいくつも紹介されており、そこに住む者たちは不思議な能力や動物たちと共に暮らしているとされます。
「白民之国」に棲む「乘黄」も、そうした異界の霊獣として描かれています。
『山海経・海外西経』より:
白民之国在龙鱼北,白身披发。
訳:
白民(はくみん)の国は、龍魚の北方にある。
白い肌で、髪を垂らしている人々が住んでいる。
『逸周書・王会解』による乘黄
白民乘黄,乘黄者似狐,其背有两角。
訳:
白民は「乘黄」に乗っている。
その乘黄は狐のような姿をしており、背には二本の角がある。
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つまり、乘黄は単なる神獣ではなく、「白民の乗り物」としての位置づけもあるようです。
この記述から読み取れるのは、
- 乘黄は白民国の象徴的な存在
- 民の移動や儀礼に使われる“聖獣”のような役割を担っていた可能性
また、乗ることで「2000歳の長寿が得られる」という『山海経』の説話も、この背景を踏まえると、白民が“特別な寿命”や“神聖な力”を持つ民であるという神話的イメージとつながってきます。

まとめ|乘黄は「不老長寿の希望」を象徴する神獣
乘黄は狐のような姿に、背中から角を生やした姿をした瑞獣です。
また、その背に乗ることで2000歳もの長寿が得られるという伝説は、古代中国の人々が抱いていた「不老不死」への憧れを映し出しています。
乘黄は『山海経』では、白民の国に棲む霊獣として描かれますが、
他の文献、たとえば『逸周書』や『初学記』にも登場し、そこでは黄帝さえも乘黄に乗ったという神話が語られています。
その呼び名も、「滕黄」「飛黄」「翠黄」「紫黄」など多岐にわたります。神聖な存在として多くの別名を与えられてきたようです。
『山海経』の中には、まだまだ不思議な生き物たちがたくさんいます。
これからも少しずつ、紹介していけたらと思います。
参考文献
- 『山海経 海外西経』(晋・郭璞注)18巻本 明刊版
※国立国会図書館デジタルコレクションより参照 - 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 『逸周書・王会解』(古典電子図書)
- 百度百科 乘黄について