今回はその中から「夫諸(ふしょ)」という瑞獣をご紹介します。
夫諸は、白い鹿のような姿で、角が4本あるという不思議な見た目をしていて、その姿が見えると、その場所では大きな洪水が起こると言われていました。
昔の中国の人々は、自然の変化や災害を、神さまや伝説の生き物と結びつけて考えていました。
夫諸も、そんな「自然と神話がつながった世界」の中に生きている存在なのです。
原文(『山海経・中山経』より)
『山海経・中山経』の三の巻に登場する夫諸の原文です。
(敖岸之山)有兽焉,其狀如白鹿而四角,名曰夫诸,見則其邑大水。
山海経・中山経
意味(やさしい日本語訳):
敖岸山には、ある獣がいる。
その姿は白い鹿のようで、角が4本ある。
名前は「夫諸」といい、その姿が現れると、その土地には大きな水害が起こるとされる。
夫諸の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 夫諸(ふしょ/fū zhū) |
姿 | 白鹿のような体、角が4本 |
特別な能力 | 大水・洪水の前兆 |
生息地 | 敖岸之山(『山海経・中山経』に登場) |

https://dl.ndl.go.jp/pid/2555514 (参照 2025-06-26)
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夫諸は美しさと神秘性を兼ね備えていますが、同時に「水害の前触れ」とされる点が特徴的です。
神話的な意味合い|なぜ水と関係するのか?

白鹿のような姿をした夫諸は、神聖で吉祥な存在であると同時に、水害を引き起こす兆しでもあります。
これは、瑞獣と自然現象が連動する中国古代の思想の特徴です。
つまり神獣の出現が天の意思や地上の変化を伝えるという信仰とつながっていると考えられます。
また、四本の角を持つという点も非常に象徴的です。
鹿はしばしば「精霊的な存在」「不老長寿」などを意味しますが、角が四本というのは普通の鹿ではない特異な存在であることを示しています。
現代に生きる「夫諸」のイメージ

現代の私たちにとっても、「自然災害の前兆を神話的にとらえる」視点は新鮮です。
「空が赤く染まると地震が起きる」
「鳥が騒ぐと嵐が来る」
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こういった“前兆”を信じる感覚は、現代でもどこか共通しているかもしれません。
夫諸は、そうした自然と共に生きる知恵や、災いへの畏れを象徴する存在なのかもしれません。
子ども向けに語り継がれる夫諸の物語

『山海経』では「災いの兆し」とされる夫諸ですが、近年ではそのイメージを少し柔らかく伝える子ども向けの創作ストーリーも存在します。
ある絵本では、天の池のそばで暮らしていた夫諸が、うっかり山を下りて村に現れたことで大洪水を引き起こしてしまう、というお話が語られます。
村人たちは危機に直面しながらも、夫諸に導かれて高い山へと避難し、命を守ることができました。
洪水のあと、夫諸は深く反省し、二度と山を下りることはなかった…
そんな物語は、災いの中にも思いやりや希望はあるというメッセージを子どもたちに届けてくれます。
このように、古代神話をもとにした新たなストーリーが生まれることで、神獣・夫諸もまた現代の私たちに身近な存在として語り継がれているのです。
まとめ|夫諸は災いと希望をあわせ持つ神獣
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『山海経』に登場する神獣・夫諸は、白鹿のような美しい姿に四本の角を持ち、現れるとその地に洪水が起こるとされる神秘的な存在です。
古代の人々は、自然災害をただの偶然ではなく、神や神獣からの“兆し”として受け止めてきました。
夫諸もまた、そうした思想の中で生まれた「災いを知らせる瑞獣」として描かれています。
一方で、子ども向けに語り継がれる創作物語では、夫諸は自らの過ちを悔い、人々を守ろうとする優しい一面を持つ存在として描かれています。
この再解釈からは、「過ちから学び、希望をもって生き直す力」も読み取れるのかもしれません。
自然の力に畏れを抱きつつも、命の尊さを見つめ直す
そんなテーマが、夫諸という神獣の物語には込められているように思います。
参考文献
- 『山海経 中山経』(晋・郭璞注)18巻本 明刊版
※国立国会図書館デジタルコレクションより参照 - 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 『这才是 孩子爱看的 山海经』北京理工大学出版
注記 この記事で使用した現代語訳は筆者によるものです。『山海経』の解釈には諸説あることをご了承ください。
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