今回ご紹介するのは「水馬(すいば)」という、馬のような姿をした水中生物です。
その前脚には文様があり、牛のような尾をもち、さらには人のような声で鳴く存在として描かれます。
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この記事では、『山海経・北山経』に登場する水馬の描写をもとに、その姿や意味についてまとめます。
原文(『山海経・北山経』より)
『山海経・北山経』に登場する水馬の原文です。
求如山(滑水)中多水马,其状如马,文臂牛尾,其音如呼。
山海経・北山経
意味(やさしい日本語訳):
求如山の滑らかな水辺では、多くの「水馬」が暮らしている。
その姿は馬に似ており、前脚に模様がある。体には牛のような尾があり、鳴き声はまるで人が叫んでいるかのようだ。
水馬の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 水馬(すいば/shuǐ mǎ) |
姿 | 馬のような体つき |
特徴 | 前脚に模様がある |
尾 | 牛の尾のよう |
鳴き声 | 鼓よう人が叫んでいるかのよう |
生息地 | 求如山の水辺(『山海経・北山経』に登場) |
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「文臂(模様のある前脚)」と「牛尾(牛の尾)」という特徴の組み合わせ。
この幻獣は、複数の動物の要素を取り入れたキメラのような存在だったのでしょうか。
これは古代中国の神話的思考において、異なる動物の力や特性を組み合わせることで、より強大で神秘的な存在を表現する手法として頻繁に用いられている印象です。
水馬が登場する「求如山」とは?
『山海経・北山経』に登場する求如山の原文です。
單孤山又北二百五十里,曰求如之山,其上多铜,其下多玉,无草木。而西流注于诸毗之水。
山海経・北山経
意味(やさしい日本語訳):
単孤山からさらに北へ250里行ったところに、「求如山」と呼ばれる山がある。
この山の上部には銅が豊富にあり、下部には美しい玉が多く埋まっている。
しかし、草木はまったく生えていない。
山から流れ出る水は西へと流れ、諸毗(しょび)という名の川に注いでいる。
どこにある山?
「単孤山からさらに北へ250里行ったところに、「求如山」と呼ばれる山がある。」
これは、『山海経・北山経』で山から山へと連続的に記述されていく形式の一部です。
「求如山」は単孤山からさらに北へ250里(約100〜125km)ほど行った場所にあるとされます。
求如山の特徴
- 求如山:単孤山から北へ250里。
- 銅と玉:金属資源や宝石が産出される神聖な山として描かれています。
- 無草木:草木が生えていないという描写は、神聖さ・非現実性・厳しい環境の象徴でもあります。
- 諸毗之水:この名前の川については詳細不明ですが、神話上の地名・水系と考えられます。
水馬=カバ?『山海経』から動物のイメージを広げてみる

『山海経』の記述から
「求如山の滑らかな水辺には、多くの『水馬』が暮らしている。」
この一文には、単なる“珍獣の描写”というより、何か生態的なリアリティを感じさせます。
例えば
- 水中に棲む
- 群れで暮らしている
- 馬に似ているが、尾は牛のよう
- 人のような声で鳴く
こうした特徴を見ていて、ふと思い浮かんだのが「カバ(河馬)」でした。
カバとの共通点を考えてみる
特徴 | 水馬 | カバ |
---|---|---|
生息地 | 滑らかな水辺 | 湖・川などの淡水域 |
群れの暮らし | 多くの個体が登場 | 群れ(10〜100頭)で暮らす |
鳴き声 | 人のような声 | 豊かな発声(唸り・叫び) |
見た目 | 馬に似て、牛の尾 | 大型・がっしり・四足歩行(馬っぽさ) |
空想動物の背後にある「現実」
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『山海経』の多くの獣たちは、完全な想像ではなく、当時の人々が見聞きした動物や自然現象の要素を組み合わせて創られているパターンもあるのかと思います。
例えば、カバのような大型で水辺に暮らす動物が、馬のイメージと結びつけられ、水馬という形になった可能性もあるかもしれません。
解釈を広げすぎないことの意義
現代の児童書などでは、この「文」を「花模様」と訳す例もあります。
あなたの想像する「水馬」は?

古代人にとって「見慣れない動物」は、それだけで神秘の対象だったと思います。
水馬もまた、実在する何かを投影しつつ、“異界”の象徴として語られた存在なのかもしれません。
もしこの記述だけで「水馬」の絵を描くとしたら、あなたはどんな姿を想像しますか?
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こうした断片的な情報こそが、『山海経』を読む楽しさをさらに深めてくれるのかもしれません。
参考文献
- 『山海経 北山経』
- 『山海経―中国古代の神話世界』高馬三良(平凡社ライブラリー)
- 『这才是 孩子爱看的 山海经』北京理工大学出版
注記 この記事で使用した現代語訳は筆者によるものです。『山海経』の解釈には諸説あることをご了承ください。