中国の古代地理書『山海経』には、カラフルな羽を持つ神秘の鳥「鳳凰(ほうおう)」が登場します。
その姿はただ美しいだけでなく、「天下泰平の象徴」として特別な意味を持っていました。
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そして日本でも伝統工芸からアニメやゲームまで、さまざまな作品に用いられていますね!
この記事では、『山海経』の原文や訳をもとに、鳳凰の特徴や象徴する意味をやさしく解説。
さらに、子ども向け絵本で描かれたビジュアル表現も取り上げながら、鳳凰が持つ魅力に迫ります。
鳳凰とはどんな存在?
原文(『山海経・南山経』より)
『山海経・南山経』に登場する鳳凰の原文です。
丹穴之山,有鳥焉,其狀如雞,五采而文,名曰鳳皇。見則天下安寧。
山海経・南山経
意味(やさしい日本語訳)
丹穴山という山に、ある鳥がいる。
その姿は鶏に似ており、羽は五色に彩られ美しい模様がある。
その名を「鳳凰」といい、この鳥が現れると、天下は平和になるという。
鳳凰の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
名前 | 鳳凰(ほうおう/fèng huáng) |
姿 | 鶏に似た姿 |
羽の色 | 五色に彩られている(五采) |
模様 | 文(あや)=美しい模様がある |
特別な能力 | 出現は天下泰平のしるし。五徳を体現し、人々に道徳心を促す |
生息地 | 丹穴山(『山海経・南山経』に登場) |
「五采而文」の“采”は色彩、“文”は模様を意味するため、五色に彩られた美しい羽を持つと解釈されます。
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この五色とは儒教の五常「徳・義・礼・仁・信」が反映されているそうです
鳳凰はただの瑞鳥ではなく、「天下安寧」という社会全体の平和をもたらす象徴的存在として描かれていますね。
鳳凰の歴史的変遷と文献上の記録
『山海経』以外にも様々な古代中国の文献に鳳凰の記述は見られます。
しかし、その姿や意味合いは時代とともに変化してきました。
最古の記録:
殷代では甲骨文字にすでに「鳳」の字が存在し、風の神として祭祀の対象となっていることが確認されています
当初は鳥神として崇拝の対象だったようです。
春秋戦国時代:
儒家思想の発展とともに、鳳凰は次第に徳の象徴として解釈されるようになります。
『礼記』では「鳳皇至、有道之世也(鳳凰が訪れるのは、正しい道の世である)」という記述があります。
漢代:
『淮南子』などの文献では、鳳凰は「百鳥の王」として描かれ、君主の象徴としての性格が強まりました。
唐宋時代:
皇室の権威を象徴する装飾として、宮殿や衣装に盛んに用いられるようになります。
この頃から鳳凰は皇后(女性)の象徴とされ、龍(皇帝の象徴)と対になる存在として扱われることが増えました。
鳳凰の羽に刻まれた五常の文様
羽の部位 | 描かれている文字 | 象徴する意味 |
---|---|---|
頭 | 徳 | 人としての善き心、徳行の根本 |
翼 | 義 | 正義、公正な判断 |
背 | 礼 | 礼節、社会的な秩序 |
胸 | 仁 | 思いやり、他者への慈しみ |
腹 | 信 | 誠実、信頼を裏切らない心 |
※これは子ども向け絵本(『这才是孩子爱看的山海经』)および高馬三良訳『山海経』に見られる表現を参考に再構成したものです。
解説:鳳凰は「五徳」を備えた理想の存在
鳳凰の羽に描かれた5つの文字は、儒教で重視される五常(ごじょう)と一致しています。
これは単なる装飾ではなく、鳳凰が道徳的な理想像そのものであることを表しています。
なぜ羽に文様があるのか?
- 古代中国では、見た目の美しさと中身(道徳性)を一致させることが重視されていました。
- 鳳凰は「見れば天下安寧」とされる瑞鳥。単に美しいだけでなく、見る者に道徳心を呼び起こす存在なのです。
- それぞれの部位に刻まれた徳目は、「全身で道を体現する存在」であることを象徴しているのかもしれません。
鳳凰の姿と五行思想の関連
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また、鳳凰の羽の色は五行思想とも結びついているとされます!
鳳凰は、五行にそれぞれ対応する「青」「赤」「黄」「白」「黒」の羽色を持つとされます。
これらの色は五行(木・火・土・金・水)と結びつけられています。
- 青:五行の「木」に対応
- 赤:五行の「火」に対応
- 黄:五行の「土」に対応
- 白:五行の「金」に対応
- 黒:五行の「水」に対応
この対応関係からも、鳳凰が宇宙の調和を象徴する存在であることがわかります。
五行のバランスが整った状態こそが、「天下安寧」の基盤となるという思想が込められているのです。
美しさと徳を兼ね備えた「理想の象徴」
鳳凰が姿を現すと「天下が安寧になる」とされているのは、ただ縁起が良いからではありません。
人々が鳳凰を見ることで、自然と自分の行いを省みるようになる。
それによって、平和な時代がもたらされるのです。
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これは、道徳と政治が強く結びついていた古代中国らしい考え方かもしれませんね
鳳と凰の違い—雌雄の区別
実は「鳳凰」という名称には、雌雄の区別があります:
- 鳳(fèng):雄鳥を指し、陽の気を持つとされる
- 凰(huáng):雌鳥を指し、陰の気を持つとされる
古来より、この二羽が揃って現れることが最上の瑞兆とされてきました。
また時代が下るにつれて、「龍(皇帝)と鳳凰(皇后)」というペアのイメージも定着していきました。
鳳凰の生態と特性にまつわる伝説
古典や民間伝承には、様々な鳳凰にまつわる逸話が残されています:
- 鳴き声:「コン・カン」と鳴き、その音色は五音階のすべてを含む完璧な調和を持つとされる
- 食べ物:竹の実だけを食べ、決して生き物を傷つけない
- 寿命:千年以上生き、自らを焼き、灰の中から再生するという伝説も(これは西洋のフェニックス伝説との混同も見られる)
- 性質:争いを好まず、平和な場所にのみ姿を現す
日本における鳳凰文化
鳳凰は中国から日本に伝わり、独自の発展を遂げました。

日本の建築物と鳳凰
- 平等院鳳凰堂:京都府宇治市にある平安時代の建築で、屋根の両端に鳳凰の像が配されています。これは阿弥陀如来の極楽浄土を表現するもので、仏教的な解釈が加わった例といえます。
- 薬師寺東塔:奈良時代の建築で、相輪の頂部に鳳凰像が配されています。
- 二条城:徳川家の権威を象徴する装飾として、鳳凰の彫刻が多く用いられています。
日本の伝統工芸における鳳凰
- 加賀友禅:金沢の伝統工芸である加賀友禅では、婚礼衣装などに鳳凰の文様がよく用いられます。
- 九谷焼:石川県の伝統陶磁器では、華やかな鳳凰の絵付けが施されたものが見られます。
- 漆芸:螺鈿(らでん)技法を用いた漆器では、鳳凰のモチーフが多く見られます。
現代日本のポップカルチャーにおける鳳凰
- アニメ・マンガ:「聖闘士星矢」の鳳凰一輝、「遊☆戯☆王」の不死鳥など、鳳凰の力を持つキャラクターが多数登場します。
- ゲーム:「ファイナルファンタジー」シリーズの召喚獣フェニックス、「モンスターハンター」シリーズのテオ・テスカトルなど、鳳凰をモチーフとした存在が登場します。
- 企業シンボル:日本航空(JAL)のロゴマークは鶴をモチーフとしていますが、これも瑞鳥としての共通性から鳳凰の伝統を受け継いでいるともいえるでしょう。
まとめ:鳳凰は「理想の時代」の象徴
鳳凰は単なる神話の鳥ではなく、「徳のある政治」「平和な世の中」を象徴する存在です。
「美しさ」と「中身(心の在り方)」を兼ね備えるという理想。
たとえば、「ただ見た目がきれいなだけでなく、優しさや誠実さを持った人」って素敵ですよね。
そんな“内面も光る存在”が、鳳凰という神鳥なのだと思います。

現代に生きる鳳凰の象徴性
古代から脈々と受け継がれてきた鳳凰のイメージは、現代社会においても様々な形で私たちの生活に息づいています。
- 平和の象徴:国際的な平和運動やイベントで使われることがあります
- 再生と復興:災害からの復興や再建のシンボルとして用いられることも
- 高い理想:優れた芸術や学問、スポーツの成果を称える賞の名称に使われることがあります
このように鳳凰は、単なる神話の生き物ではなく、人類の普遍的な理想や希望を表す象徴として今なお輝き続けているのです。
おまけ:五徳を生活に取り入れるなら?
- 今日、誰かにやさしくしてみる → 仁
- 約束をきちんと守る → 信
- 小さな礼儀を大切にする → 礼
- 「これって正しいかな?」と考えてみる → 義
- 自分の在り方を整える → 徳
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ちょっとした意識で、現代に鳳凰の心を呼び込めるかもしれませんね!
五徳を育む日常の習慣
五徳を現代生活に取り入れる具体的な方法をもう少し掘り下げてみましょう:
仁(じん)を育むには
- 家族や友人に「今日一日どうだった?」と質問する習慣をつける
- ボランティア活動に参加する
- 困っている人を見かけたら、声をかけてみる
義(ぎ)を育むには
- ニュースを見るとき「これは本当に公正だろうか?」と考える
- 物事の判断をする前に、異なる立場からも考えてみる
- 正しいと思うことには、たとえ大変でも取り組んでみる
礼(れい)を育むには
- 「ありがとう」「ごめんなさい」を素直に言える心を育てる
- 食事の前に「いただきます」と言う意味を考えてみる
- 公共の場でのマナーを意識する
智(ち)を育むには
- 新しいことを学ぶ時間を毎日少しでも設ける
- わからないことは素直に質問する勇気を持つ
- 自分と異なる意見にも耳を傾ける習慣をつける
信(しん)を育むには
- 小さな約束でも必ず守る
- 嘘をつかず、正直に話す勇気を持つ
- 自分の言葉に責任を持つ
これらの小さな習慣が、現代における「鳳凰の心」を育み、周囲の人々との平和な関係を築く基盤になるのではないでしょうか。
参考文献・出典
以下の文献・資料を参考にしています:
- 『山海経 西山経』(晋・郭璞注)18巻本 明刊版
※国立国会図書館デジタルコレクションより参照 - 『山海経・西山経』原文(古典資料)
- 『山海経』高馬三良 訳(平凡社ライブラリー)
- 北京理工大学出版『这才是 孩子爱看的 山海经』
- 『日本の文様解読図鑑』
※ご興味のある方は、実際の原典や注釈書もぜひ手に取ってみてください。
『山海経』の世界は、読み込むほどに奥深く、今なお多くの想像と創作の源となっています。